発達障害のある人たちが利用する
施設実践綱領
−福祉サービス提供に当たっての指針−
(その2)
第2章 施設の運営
1.入所
利用者の施設入所にあたっては、施設利用の目的と施設が提供できる機能の内容を説明し提示すべきである。とりわけ生活施設の入所については、家族や措置機関が利用者に理解と合意を求めなければならない。施設は利用者の入所にあたって、入所の理解と合意の再確認をおこなう。利用者本人の承諾を求めることのない入所はあり得ない。どんなに重い障害があっても同様な過程を経て入所がおこなわれる。
また生活施設入所を希望する場合、利用者の生活様式について基本的な情報を得るために、必要に応じて事前の家庭訪問を実施する必要がある。
2.所有品
個人の所有品については、居住空間が許すかぎり持ち込むことができる。持ち込む所有品については、利用者本人と施設が話し合って決める。利用者の私物の管理は、充分に注意を払って大切に取り扱われなければならない。
個人の衣類や寝具等の購入にあたって個人の好みを無視した購入はおこなわない。また衣類の記名は適切な方法でおこない管理を優先した手段をとらない。
生活施設入所にあたって、家具、カーテンは利用者本人が準備する。
3.記録
施設利用者の個人的な事柄に関する記録は、安全な場所に保管され個人の秘密が厳守されるよう管理されなければならない。また利用者の個別“じりつ”援助計画は、利用者と職員が協議し合意上で作成されなければならない。取り組みの経過については随時利用者本人に開示し、達成について話し合う。また当直記録、作業記録、通院記録などについて、利用者の閲覧要求があった場合、基本的には閲覧要求を承認すべきであるが、利用者の判断状態に著しい混乱がある場合は拒むことができる。
施設管理者、職員は、利用者のプライバシー守秘義務を負う。研究会、学会等でのケースの記録に関する公開に際しては、本人及び家族の同意が必要である。その際、業務上知り得た情報の守秘義務と人権への十分な配慮と注意が求められる。尚、同意が求められないときは、本人が同定されないための工夫や配慮が必要となるが、発表にあたってはその旨について明示しなければならない。
4.日課を超えるには
原則として日課は設定しない。
ただし日課それ自体は利用者の健康と快適な生活と活動を営むものとして、施設運営と矛盾するものではない。「生きる」「働く」「暮らす」という、生活する立場からの柔軟な時の流れがあり、適切な区切りが設けられるにすぎない。その設定は利用者の自主性やその時の気分が尊重されることが条件となる。
しかし、生活施設における日課は、集団生活としてのルールと個人の好みや希望に対応するルールの二極の併存が望ましいが、現実には職員の配置数等の理由で管理優先になる。起床、就寝、食事、入浴、余暇、作業等々の日課は、普通の生活に近い状態で設定される必要がある。日課自体が利用者を拘束していく場合がある。日課の実施にあたっては、生活施設で24時間365日生活する利用者の立場を考え、利用者が選択できる余地を残しておかなければならない。ごく普通の生活という内容には、リスクを伴うような行動をおこなうことも含まれる。
普通の暮らしも大まかな日課によって営まれている。施設の日課が、分秒単位で組まれてはならない。日課に囚われず日課を廃止したような時の流れの中で生活することが望ましい。
5.規則
施設利用者にとって規則は最小であることが望ましい。規則は利用者の理解が得られるものであり、利用者の“じりつ”に働きかける内容をもつことが重要である。規則の作成は施設管理の立場から提示されるものと、利用者間の協議によってつくられるものがある。グループミーティングによる共同生活及び共同活動に関するルールの策定が必要である。判らない人、できない人として応じるのではなく、利用者の集団を創る力を強める援助が重要である。
また自他に対する危険な行為への自覚をもてない情況下にある利用者の行動の規制は、職員間で充分な協議をおこない、行動制限の実施については適宜嘱託医等のチェックを受ける制度的な確立をすべきである。指導・援助にあたっての社会的妥当性についての検討が日常化されなければならない。
6.決定過程への利用者参加
施設の活動と暮らしを築く構成員が、施設の運営を決定する過程に参加することは当然のことである。利用者の自治機能が施設創りに参画するように努めなければならない。
利用者自身で企画・実行できる活動内容については、彼らの自主性に委ねるべきである。
職員は施設利用者の知的障害に配慮し、身近な具体的な体験からの学びを重ねる中で、普通の市民社会に参加する方向へと働きかけることが大切である。
また、法人・施設運営者は、利用者の自治が自らの要望や要求を施設運営者に求める制度的保障を確立すべきである。
7.名前の呼び方
利用者の名前の呼び方は、利用者一人々々の希望を尊重しなければならない。利用者が姓または名を呼ばれることに嫌悪を示すこともある。利用者の心の形成に家族の陰影が刻み込まれている。名前は自他の区別のために付けられたものではない。家族が子の成長を願って熟慮して名付ける。末男をマツオと呼ぶ。7番目の末っ子である。小学校の入学式で担当の教諭からスエオ君と呼ばれ、母親がマツオと読みます、と訂正する。事情を知っていいる母親たちがどっと笑う。彼は自分の名との葛藤を人知れずおこなうことになった。自己肯定への長い精神遍歴が始まる。名前・名付けは、誕生と同様、子が自分で選ぶことのできない人間の行為である。
呼称は記号の音声化ではないい。呼称には人間の関係性の息吹が刻印されていく。したがって、呼称に現れる息づかい、温もりに、呼ばれる人と呼ぶ人の関係性があぶり出される。しかし、名前及び呼称は、利用者が自由に扱うことができる所有物である。利用者の権利に属する内容をもつ。利用者の名前は、利用者の尊厳と尊重を基本として呼ばれる必要がある。このような利用者の呼称の権利性を侵害する呼び捨ては厳禁である。
さらに、利用者は人に応じて別の呼び方をされたいという気持ちをもつ場合もある。そのような気持ちも尊重されなければならない。
8.利用にあたっての苦情・不平等の異議申し立て
施設利用に関わる利用者及び家族、代理人は、法人が施設利用にさいして示す実践綱領に照らして不平及び苦情の申し立てをおこなうことができるようにすべきである。
また実践綱領に提示されていない事についての苦情・不平申し立てについても真剣に退所され記録に残さなければならない。苦情・不平申し立てに対しては、横浜市福祉調整委員会、Yネット、かながわ権利擁護相談センター等の機関を通しておこなわれ、施設からの誠実な回答と必要に応じて具体的な改善が示される。
9.利用者へのケース記録の公開
利用者の行動及びケア・プログラム等の記録について、利用者、家族、代理人からの確認を求められたときは、原則として認めるべきである。
記録は利用者個人に対する励まし、指示、援護への働きかけを対象化するためにおこなうものであり、利用者に関する情報の蓄積でもある。利用者と職員が記録を介在して、関係性の来し方、行く末を分かち合うことは、利用者の“じりつ”を基本とした総合的な地域生活を創るために必要不可欠なことである。
ただし利用者に関するデリケートな情報については、そのまま利用者に開示するのではなく、必要な説明と理解を求めるながらおこなうことができる。また、記録を公示できない場合は、所属の施設長から理由と理解を求める説明をおこなう必要がある。
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※この実践綱領は、平成4年に作成されたものを改訂し、
平成12年3月に承認されたものです。
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