<<実践報告・論文集>>

精神薄弱者更生施設における心理的援助プログラムの試み
−青年、成人期の問題とその援助−
(その4)



(3) おわりに

 本報告では、我々の施設で試みている青年、成人期以降の女性に対する心理的援助プログラムの実際について述べた。
 この二つの事例に関しては、次のような共通点がある。
@行動化傾向が強く、性的逸脱行動がある。
A父を早くに亡くし、軽度の知的障害者である母親に育てられ、兄も知的障害者である。
B中学生の頃に性的被害にあっている。
C父親に対して、否定的感情をもっている。(母が暴力を振るわれたのをみたり、父がほとんど生活費をいれなかったりといったことの体験がある)
 これまでも、こういった条件が重なっている事例が、更生施設を利用する例は少なかったわけではない。しかし、その援助に関しての知識や情報が蓄積されていない感があった。そのため、我々の施設では、彼女たちが上の4つの点から、親から肯定的な愛情を得られなかったり、性被害にあったりという、外傷体験をもつ女性であるとの認識に立ち、援助プログラムにあたった。米国の精神医学者ハーマンは「児童期に、外傷をくり返しこうむれば、この外傷が人格を形成し変形する。虐待的な環境にはまって出られなくなった子どもは、社会に適応するのが恐ろしいほど大変な仕事になる」と述べている。このように外傷体験という視点に立つと、当然のことながら、必ずしも精神薄弱であること自体が不適応を引き起こすとは限らないことが理解され、援助側の多様な症状理解と、その援助に対するプログラムの構築が尚一層求められることになろう。そのためには、施設内だけでプログラムを組むことにこだわることなく、各種の社会資源−たとえば、事例2ではマックやAA−の活用や連携も必要であろう。
 最後に、精神薄弱者更生施設において、心理的援助プログラムを行う上での課題について述べておきたい。精神薄弱者更生施設では、生活指導員、作業指導員、看護婦以外の直接処遇職が常勤として勤務する例が少ない。しかし、当施設では心理職という職種が配置されている。心理検査そして今回紹介したようなセラピストとしての役割が中心的な仕事である。さらに、事例に応じては作業療法士、音楽療法士を外部から招き、それぞれがその役割を果たしている。
 そこで問題になるのがチームアプローチにおける「チームワーク」である。精神薄弱者更生施設によっては、多くの職種が共存するカルチャーが、育っていないのが現状ではないだろうか。そのため、一人の事例に対して、生活指導員、作業指導員が取り組んでいることに、他の専門職が介入することで、その事例の両手、両足を引っ張り合う場合がある。たとえば、それぞれの職種が手柄話を始めてしまったり、一つの事例にのめり込んでしまい、他の職種からの情報を受け取ろうとしなかったりということなどが生じる。これでは、折角多様な職種を配置しても、余り実りある臨床的成果は得られない。
 これらのことを防ぐためには、何のために専門職種を配置したかをよくよく検討する必要がある。また、事例理解を共有化するためのケース会議を通して、お互いの役割について語り合い、尊重しあう姿勢が重要であろう。
 他方、施設におけるセラピストの利点としては、面接場面を安全、安心の場としやすいことが挙げられる。確かに、生活場面と距離が近すぎるために、臨床面接を構造化しにくい面はある。しかし、精神薄弱者の中には、外来場面であったら、定期的にセラピーに通うことは困難な事例が存在する。それは、モチベーションや移動などの問題があるからである。
 その点、更生施設の同一敷地内に相談室が位置することにより、このような問題が克服しやすく、更には、施設という大きなシステムへの安心、安全感が働き、自己開示しやすいと言えよう。 

てらん広場 心理職 蒲生としえ

<文 献>
J.L.ハーマン(1992)中井久夫(訳)(1997) 心的外傷と回復 みすず書房
笠原嘉(1997)青年期−精神病理学から  中公新書
L.ルボルスキー(1984)竹友安彦(監訳)(1993)精神分析的精神療法の原則
 岩崎学術出版社
前田重治(1996)図説臨床精神分析学 
 誠信書房
斉藤学(1983)女性とアルコール依存症  海鳴社

             

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