横浜健育センター 平成26年度 総括
統括所長 中田 聡

はじめに開所準備平成26年度重点目標事業概要高等学院
自立・就労小机新校舎次年度に向けておわりに

■はじめに

 平成26年7月1日、横浜市から要請された新規事業として、法人としては初の試みとなる教育に関する事業「横浜健育高等学院」、指定障がい福祉サービスである「横浜健育自立センター」(自立訓練〈生活〉)及び「横浜健育就労移行センター」(就労移行支援)の、教育と福祉を三位一体で事業展開する『横浜健育センター』の運営を開始した。
 前年度の横浜第二事業部に続き、旧運営主体であるNPO法人PWLの経営継続困難に伴い、何よりも生徒・利用者の行き場がなくなるという事態を生じさせないため、社会福祉法人としての社会的責任を担った理事会の決定であった。同時に、新たな政策提起を含め、多くの問題を解決しながら安定的な運営を行うための手立てを行い、教育と福祉を一体とした事業の展開を前向きに進めていく「福祉型高等学校」という新たな価値創造への挑戦でもあった。
 しかし、生徒・利用者へのサービス継続のためにはあまりにも時間的猶予のない中で、仮校舎・事業所の整備、定款変更、特に通信制高校卒業のための単位取得については、教育分野の法令・制度を担っていた職員が継続雇用出来ないという状況が生じたことにより、技能教育施設の指定を中心に、年度末に向け大きな壁が幾重にもあり、越えられないのでは・・・と不安に押しつぶされそうになりながらのスタートとなった。

■開所準備

 4月28日の理事会決定後、すぐに移転先を探す作業を開始した。条件は、運動等の活動を横浜ラポール中心に考えることと、現在地である北新横浜からできるだけ近い場所で、約70名の生徒・利用者を受け入れることが可能であり、各種法令上の要件をクリアできる物件である。
 同時に、既に新聞報道等によって多くの不安を抱えている生徒・利用者、家族及び教職員に対して5月上旬から中旬にかけて横浜市と共に複数回の説明会を開催しながら、雇用契約、指定申請をはじめ、神奈川県教育委員会とクラーク記念国際高等学校に幾度となく足を運び、法令・制度の習得を行い、現実的な打開策と方向性を見出すための相談を繰り返す。しかし、この段階では移転先も事業所名称も未定という状況であった。
 5月27日理事会にて、横浜第二事業部の組織を整理するとともに、横浜健育センターの統括所長を選任して北新横浜現地に派遣し、既存スタッフとのチームづくりを行い開所に向けての準備を本格的に開始した。
 6月に入り、ようやく事業所名称が確定するとともに移転先物件の確保が出来たことにより、残りひと月の中で、教育・福祉両制度に合致する改装工事を実施して、教卓、学習机等を含め、事業開始に向けて必要となる設備・備品等の整備を進めることができた。
 ハード面とともに、日々の時間割、余暇目的の新たな土曜活動開始、昼食手配、1・2年次における2泊3日宿泊体験の継続検討を含む年間スケジュールの確定等、ソフト面の策定も行った。
 まさに、1日が24時間であることを短過ぎると感じるひと月であったが、スタッフ一丸となり開所前日を迎え、平成26年度重点目標を確定し、職員室の中心に法人の理念と使命を掲げ、この先も大きな困難が予想されるが、生徒一人ひとりにとっては、かけがえのない10代の「一年」であることを忘れずに共に歩んでいくことを確認する。

■平成26年度重点目標

  1. 卒業及び進級
    横浜健育高等学院を利用する生徒の最大のニーズは普通高校卒業資格である。その目標を全員が達成できるよう支援を行う。
  2. 就職
    上記同様、横浜健育就労移行センター利用者の就職について最大限の支援を行う。
  3. 組織統治体制の確立
    三位一体のサービス提供について、最大効果を発揮できる組織体制を模索する。そのための部署間の交流及び定例会議を開催する。
  4. 法令順守体制の確立
    利用者ニーズに着眼した先駆的取組であることを職員全員で理解し、同時に先駆的であるがゆえの様々な法令・制度についての必要な対応を確認する。
  5. 「技能教育施設」及び「面接指導施設」新規指定申請・認可
    新規指定・認可を受けることによる生徒のメリットを最大限に活用できるよう、次年度に向けて必要な作業を法人と共同してすすめる。

■事業概要

  1. 横浜健育高等学院
     学校教育法第55号の規定による指定技能教育施設(神奈川県教育委員会)
     クラーク記念国際高等学校連携措置(通信制課程普通科)
     *定員60名(1~3各学年20名)
  2. 横浜健育自立センター
     自立訓練(生活訓練)
     *定員35名
  3. 横浜健育就労移行センター
     就労移行支援
     *定員25名

 主として、中学校の特別支援学級を卒業した軽度の知的障がい、発達障がいを持つ方に対して、「横浜健育高等学院」に入学して頂き、午前中の3時間、教育課程に基づき各教科の講師による授業を受けながら、毎月の報告課題、前期・後期の試験、面接指導時間を満たすことにより、高等学校普通科卒業資格の取得を目指す。
 同時に、1~2年生に対しては午後から「横浜健育自立センター」において、日常生活での身だしなみ、コミュニケーション等をはじめ、自立した生活をおくることが出来るよう「表現する力を養う話学・演技・音楽」「知識・技術を豊かにする科学・家庭・クラフト」「社会性や生活を豊かにするPC・SST・書道」「基礎体力の向上を目的としたテニス・バスケットボール・サッカー等の運動」等のプログラムを提供する。
 そして、3年生になると午後に提供するプログラムは「横浜健育就労移行センター」において、社会生活に向けて「基礎力アップのための漢字力・計算力向上練習・電卓計算」「就労に向けた面接練習・企業見学・清掃実習」「仕事についたらすぐに役立つあいさつ・声掛け・報告練習」「週5日1日8時間働くことができる体力づくり」等の就労に結びつく効果的なものが中心になる。
 また、就労移行センターでは、学院の卒業生以外の利用者に対しても同様のプログラムを提供し、企業就労に結びつけるとともに手厚い職場定着支援も行う。

■高等学院

 スタートと同時に制度上の要請から教育課程の変更が必要となり、急遽、専門科目として「フードデザイン」を取り入れて対応する。年度途中の厳しい状況であったが、ベテラン職員の対応により報告課題や試験を無事に終了することが出来た。
 また、教務担当者不在問題に関して、チーフを中心に本校との連絡を密に保ちながら生徒に不利益のない形ですすめ、年度後半にはセンター事務担当の職務として位置付けて今後の方向性を確認し、試験会場確保問題についても、横浜キャンパスの協力を得る事により実施することが出来た。
 後期に入り、学院長と共同して講師会を発足させ、定期的に全講師と統括所長及び学年担当職員が参加して各教科に関する指導方法や時間配分、生徒に関する情報共有の仕組みや、講師と職員の効果的な連携のあり方等について活発な意見交換と情報共有を行った。
 本人の独特なこだわりや衝動性、気力等の問題により、学級において他の生徒との空間共有が難しい状況や、なじむ事ができずに日中に登校することが難しく、家庭に引きこもる傾向が生じていた3年生2名について、其々17:00と18:00からの1時間、個別学習を取り入れて対応を行った。内1名は部分的ではあるが日中時間帯における登校を卒業間際に達成することが出来た。
 その他、特別教室を活用し、数学について担当講師が複数名であるメリットを生かして、習熟度別にクラス分けをした授業の実施、学年担当職員による丁寧な報告課題の内容確認、試験前の個別補習の実施等とともに、休みがちな生徒や遅刻の多い生徒に対して、連絡帳や電話を含む日々の家庭との連携強化を行った。これらの教職員の努力によって、3年生全員の卒業を含む全生徒の進級を達成することが出来、3月21日にラポールシアターに於いて、厳かな雰囲気の中で第1回卒業証書授与式を挙行し、単位制生徒を含む23名の卒業生を無事に送りだすことが出来た。
 また、11月に神奈川県教育委員会より「技能教育施設」の指定を受け、2月に本校より「面接指導施設」の内示を受ける事が出来たことにより、卒業・進級とともに、学院に関する26年度の大きな目標を共に達成することが出来た。

 学院を運営する上で、卒業生を送りだすと同時に新入生を獲得して行かなければ事業の継続ができない・・・この周知の事実に対して、山積する進行形の課題を解決しながらも、開所前の6月下旬から、27年度生募集の説明会を学校・保護者それぞれに対して、出来る限り多くの日数を開催して入学試験を実施した。通常、年度当初からすぐに説明会を始める状況からすると時期的にかなり出遅れていた。それに加え、生徒のために残した「健育」という名称も、旧運営主体の不適切経営に関する新聞報道等により関係者の意識の中ではマイナスイメージが強く、また、法人としても教育に関する事業はノウハウがない中での募集活動となり、かなり苦戦を強いられる形となった。
 県内約350中学校への複数回にわたる資料送付をはじめ、HPの開設と活用、チラシ・パンフの作成と配布、制服のデザイン変更、夏休み中学生体験活動の実施、進路対策研究会や行政ケースワーカー担当者会議への出席、地域活動ホームや相談事業所への訪問、タウン誌への掲載も行う中、新入生16名と2年次転入生1名を確保し、定員には届かなかったものの、当初の状況からすると善戦できたと考えている。同時に、2月の終わりに行ったオープンキャンパスは、現中2生を中心に教室に入りきれないほど盛況となり、年度末時点での28年度生向け27年4~5月に開催する説明会等への予約も順調な状況で新年度を迎える形となり、今後については十分に希望を持てると安堵している。

■自立・就労

 オフィスビルのワンフロアでの事業実施となったことにより、いくつかのプログラムに支障が生じた感は否めないが、ラポールや自治会館等を積極的に使用することにより解決をしていった。また、組織統治体制・法令順守体制の確立を目的に、開所準備段階から定期的に職員全員が参加するセンター会議を実施して、プログラム内容や行事の企画等について可能な限り民主的に合議で決めていく形を目指した。
 その中で、2泊3日北海道宿泊体験(自立1グループ)、2泊3日沖縄宿泊体験(自立2グループ)の実施がきまり、担当職員が利用者の要望を取り入れて企画をして10月に実施するとともに、事前学習から反省会までを含めて、利用者参加型のプログラムとして必要な支援を行った。
 就労1グループ(学院3年)は、年度末行事の企画を職員は見守る形をとりながら、自分達で予算・日程・内容等全般について、リーダーを決め、話し合いを繰り返しながら企画をまとめあげ、3月にディズニーシーに日帰り旅行を実施した。
 また、運営主体や事業所移転に伴い様々な制約を受ける利用者に対して、色々な楽しい体験を多くすることにより豊かな心を育んでもらいたいとの願いから、「月一土曜日楽々活動」企画を立ち上げ、毎月1回、土曜日を開所して自立・就労それぞれ活動の目的を設定しながらも、多機能型事業所としての一体感を味わいながら集団での外出企画を実施した。
 その他、センター会議で企画されたものとしては、開所の混乱期を脱したところで、保護者に普段の様子を自然な形でみてもらうことによって安心感を持って頂けるようにとの目的で、11月に1週間保護者参観ウィークを設定し、午前の学院も含めていつでもご覧頂けるとの案内をしたところ、多くの保護者が来訪され好評を頂いた。
 同時に、会議の中で法令・制度の勉強会(教育分野含む)を複数回実施して、センターとしての先駆的な取り組みの内容を全員が理解するとともに、サビ管を中心に、利用者基礎資料の書式から個別支援計画・モニタリング等に至る支援に関する記録等の流れについて共有化を図った。また、HPもセンター会議において「我々のHPを創ろう」との議題で、ページ・体裁・文言を話し合う中で完成させた、パンフ・チラシ等も同様である。

 学院の事業継続のための条件として、新入生獲得について先述したが、就労移行センターも同様である。センターの仕組みとして、就労2グループは就労1グループ(学院3年)からの2年目利用の他、独自に特別支援学校高等部等からの新規利用を獲得して行かなければならない。
今年度、開所時9名でスタートした就労2グループは、途中1名の新規契約を受け10名で活動をする中で、法定雇用率の上昇や景気上昇も追い風に、4名の企業就労と期間満了に伴い1名が他の障害福祉サービス事業所への利用が決まった。これに対し、次年度スタート見込み利用者数は、就労1からの2年目利用は3名に留まり、高等部等からの新規利用予定は1名、長期入院予定の利用者1名を考慮した上で、8名である。これに今年度利用率等を掛け合わせると年間平均利用人数は6名を下回る・・・
 ここに、今年度9か月間の運営を終え、現在のセンターの仕組みからくる課題が浮き彫りになった。現状、学院3年間を中心に自立1・2と就労1グループに対し経営的な意識が集中してしまい、就労2グループの新規利用獲得のための手立てを取ってこなかった。今後、提供するプログラムの中身はもちろんだが、出口だけでなく入口も意識化して情報発信等をしていかなければならない。

■小机新校舎

 4月28日理事会において、法人は新規事業の決定だけでなく、その施設整備についても同時に決断をした。具体的には、新校舎・事業所建設を目的とする、JR横浜線・小机駅徒歩5分の立地に約300坪の土地を購入する、という内容である。そして、この場所に「福祉型高等学校」としての機能を備えた新校舎を設計・建設していくこととなる。しかし、この施設整備企画も、当初「技能教育施設」及び「面接指導施設」の新規指定を行うための要件となる、「自己所有か長期賃借の一棟建ての建物」として、27年度に向け26年度末までに竣工しなければならない・・・との、極めて困難なスケジュール設定と、社会福祉事業だけでなく公益事業(技能教育施設)を用途とするために、通常の開発申請のみでは許可が難しいという状況の中で始まった。
 6月までに基本設計のみでなく実施設計も行い、7月の開発幹事会に申請をしていく目標であったが、全力で取り組むも、その後も様々なハードルが待ち受けている中、結果的には4か月遅れの27年7月竣工予定となる。
 しかし、先述したように、当初方針とは違う別の形で27年度に向けての新規指定はクリアすることが出来、竣工の遅れによる悪影響を生じさせることなく済んだ。

 5月の保護者説明会においては、新校舎イメージ図と理事長の語った『母校』を作るとの言葉が、沈んだ雰囲気を一変させた。そして6月からの次年度新入生募集説明会でも小机新校舎は話題の中心となり、教職員を含め関係者にとっては、次年度に向けての希望の光であったことは間違いない。木造2階建・延床190坪、厨房を備えた温か味のある学び舎である。

■次年度に向けて

 申請関係を進めていく中で、年間授業時間数が70時間程度足りないことが判明した。これには月平均2日、土曜を新たに開所するとともに、入学式・始業式を早め、終業式を遅らせて対応することとした。そして、この総時間数の中で、普通科10教科の必修科目と選択必修科目を確保し、それぞれの報告課題の回数に比して時間を配分していく。結果、独自色をだせるのは連携科目となる。連携科目と総合学習で確保した時間を、生徒の特性や習熟度に合わせ、補習や試験対策の時間に活用していきたい。また、現在、午前中の単位取得学習に対して支援員の関わりが薄いと感じるが、今後はより積極的な関わりを検討したい。
 午後のプログラムも、1~2年・3年・3~4年・4~5年と、センターとしての特色であるそれぞれの期間をより前面に掲げ、十分な説明をし、それぞれの期間での獲得目標を設定しながら、ニーズを満たすプログラムを提供していきたい。また、移転とともに継続が難しかった「部活動」についても、普通高校や特別支援学校高等部の下校時刻が15:00頃なのに比べ、現状の終了時刻が遅いことをプラスに捉え、夕方の時間を放課後感覚の「全員入部型・部活動扱い選択プログラム」・・この様な柔軟な発想も取り入れてみたい。
 就労移行センターも、よりセンターとしての独自色を打ち出して高等部等からの卒業生を多く受け入れていくには、学院との一体感の中、いわゆる「専攻科」的な発想もしてみたい。
 ようやく安定期に入ったと言える今だからこそ、生徒・利用者のために1日を通したカリキュラムの中身を検討するための時間を、次年度は多く取りたいと考えている。

■おわりに

 年度末、通常開催とは別に次年度新入生を含む全保護者を対象に2日間保護者説明会を開催した。これは昨年5月に横浜市と合同で開催した説明会において、旧運営主体が行き詰まる中、事実上転校等の選択肢もなく、進級・卒業があやぶまれるという大変困難な状況の中で、同愛会として全力で取り組むと約束した内容(先述した26年度重点目標と概ね同一)についての結果報告としての位置づけであった。保護者の皆さんにとっては多くの不安を抱えての1年であったと思うが、これまで既述した通り、獲得目標は全て達成し改めて安心して頂ける内容の報告とすることができた。

 第1回センター会議において、プログラムや行事を検討する際に、『私たちの事業目的は何か』を話し合った。これは、法人には大きな理念と使命があり職員室に掲示した、本来はこれを受けてそれぞれの事業種別に応じた当該事業所の事業目的を決定し、その目的達成のための事業計画を作成する。これらのプロセスを経た上で日々のプログラムや各種の行事を企画検討しなければならない、このことにより、個人的ではない、事業所として一貫したサービス提供が出来るとともに、様々な事象にも速やかな判断を行うことが出来、結果として安心安全なサービス提供と質の向上につながる。故に、年度末に向けて走りながら、かつ逆の流れにもなるが、私たちで彼らのニーズを探求し事業目的を一緒に考えて行きたいと・・・

 現在、共有化している私たち横浜健育センターの事業目的は、生徒一人ひとりに対して、出来る限り普通高校と同様の高校生活を味わってもらいながら、きめの細かい学習等のサポートを行い、同時に、彼らの障がい特性に応じた全般的な支援をすることである。
 また、必ずしも3年間で社会に出ていくことを条件とせずに、彼らだからこそ、もう1年という時間をかけて、ゆっくり「学び」と「訓練」を行いながら社会に出ていくシステムを提供する。
 特別支援学校ではなく、私たちのシステムに希望を見出し、横浜健育を選んでくれた彼らに対し、教育だけでなく、法人の持つ福祉のノウハウを加え『教育』と『福祉』両輪のサービスを提供することにより、特別なニーズを持つ10代後半の生徒・利用者に全般的な支援(援助)をしていかなければならない。