横浜健育センター 平成27年度 総括
統括所長 中田 聡

はじめに平成27年度重点目標思春期の生徒・利用者支援
次年度に向けておわりに

■はじめに

 事業開始から9ヶ月を終えた26年度末、職員集団で話し合いを行い理事会に報告した横浜健育センターとしての事業目的は以下の通りであった。

┃横浜健育センター事業目的┃
  1. 『教育』と『福祉』両輪のサービスを提供することにより、特別なニーズを持つ10代後半の生徒・利用者に全般的な支援(援助)を行う。
  2. 生徒一人ひとりに対し、出来る限り普通高校と同様の高校生活を味わってもらいながら、きめの細かい学習等のサポートを行い、障がい特性に応じた全般的な支援をする。
  3. 作業訓練だけでなく『学び』の感覚の中で就労に向けた知識・体力の向上を目指し、人間関係の構築が出来るようなプログラムを提供し『働くを現実に』を実現する。
 そして、2年目の今年度は4月から3月までを通して運営を行う初めての年度となり、中長期的な視点からも、年度事業の全てを把握するとともに、前年度から課題としてあげられていた、ソフト(カリキュラム・プログラム検討と質の向上)とハード(小机新校舎整備と移転)両面の解決をはかることが法人からの要請でもあった。

┃平成27年度同愛会事業計画抜粋┃
  1. 横浜健育センター移転及び学び舎つくり、拠点施設竣工(平成27年7月末)
  2. 福祉型高等学校及び自立訓練・就労移行支援についてのカリキュラム、支援プログラムの研究及び質的向上
【後期中等教育課程の質的向上、教育・福祉を総合した人間教育課程の理論化プログラム化】

 この状況に対し、年度当初に具体的な14の重点目標を設定して取組みをすすめる事になったが、特に、教育/訓練に関するソフト面等については、高等特別支援学校長を歴任され特別支援教育に権威のある新学院長を迎えて積極的な対応を行い、本来、当初から目標設定しておくべきだった項目に至るまで追加で実施をして年度末を迎えた。

■平成27年度重点目標 14項目について

(1)年度を通したセンター事業の把握
 「行き当たりばったり」と言われた前年度の反省を踏まえ、随時検討を重ねながら今後の行事、労務、募集、予算等の管理に活用でき、スタンダードとなる年間予定表を作成した。

(2)単位取得学習の支援強化
  • 引き続き定例(年4回)の講師会を開催し、生徒の状況や要配慮事項等の共有化を図った。
  • 「学びたいにこたえる授業づくり」をテーマに、障がい特性に応じた理解と配慮を中心とした講習会を開催した。
  • 下半期より1日の授業時間数を3時間から4時間に増やし、年間授業時間数について900時間超を確保した。
  • 3年間の学習の流れについて改善を図る目的で、地歴/公民の教育課程を一部変更した。
  • 各時限における、より積極的な学年担当職員による関わりを模索したが、次年度に向け課題が残る状況として年度末を迎えた。
  • 報告課題や試験対策における丁寧なフォローの実施について、一定の成果をあげる事は出来たが、次年度は更に各学年に週1時間総合(個別課題)の時間を設けて充実させる。

(3)学院事務(教務)の項目確認と役割分担の確定
  • 法人としての教務/教育事業制度の把握を目的に、独自の教務マニュアルを作成した。
  • 要望が強かった、学院3年間で必要になる概算経費表を作成し保護者に配布した。
  • 生徒の動静を的確に把握し一層の安全を図るために、全授業毎の出席簿を導入した。

(4)自立訓練/就労移行支援プログラムの再検討と強化
  • 自立訓練について、生活基礎、表現、コミュニケーション、社会自立、運動の5領域を設定し領域毎、かつ月別の年間プログラムを策定し実施した。
  • 就労移行支援について、キャリアラーニング/ガイダンス、キャリアスキルトレーニング、パソコントレーニング、体力づくり/簡易スポーツ、クッキングサービスの5種目のプログラムを作成し実施した。
  • 就労移行支援事業年度登録者34名に対し、面談等を繰り返す中で本人/保護者の意向を確認しながら積極的な職場実習や合同面接会への参加を実施し、企業就労について次の結果を残した。
    ・就労1グループ〈学院3年生〉8名・就労2グループ5名、合計13名(前年度12名)
  • 指導しにくい内容として敬遠しがちであった「性の学習」について、専用教材等を活用しながら実施した。
  • 事業所を各種検定の実施会場として登録し、訓練の延長線上で希望者に対し受験を促し次の結果を残した。
    ・ワープロ検定(準1級1名・2級2名・準2級3名・3級4名・4級6名)
    ・情報処理検定(3級7名・4級11名)
    ・漢字検定(準2級1名・3級2名・4級2名・5級4名・6級3名・7級1名・8級2名)
  • 余暇と様々な体験を目的に、自立1グループは4月に上郷1泊宿泊体験、自立2グループは沖縄2泊宿泊体験、就労1グループは3月に利用者自身が企画をして東京日帰り観光を実施した。次年度は就労2グループについても、同様の目的で実施を試みたい。

(5)サービス管理責任者業務の整理及び後身指導
  • 利用者支援の充実を図ることを目的に、サビ管が中心となり横浜健育センター書式策定委員会を発足させ、フェイスシートから始まる個別支援計画関連20種類を超えるセンター独自の書式を策定した。
  • 上記書式に基づき、全職員に対して個別支援計画に係る制度勉強会を開催した。
  • 支給決定(18歳未満利用)や自立訓練から就労移行支援に係る行政調整のマニュアル化を目指したが、次年度に向け課題が残る状況として年度末を迎えた。
  • 年度末、及び3か月毎のモニタリング時の業務集中に対し分散化を検討したが、次年度に向け課題が残る状況として年度末を迎えた。

(6)計画相談実施への対応
  • 年度当初より保護者等への周知を試みると共に、セルフプラン等への支援は事業所として積極的に行った。
  • 横浜健育センターとしても指定特定相談支援事業所の開設を視野にいれて年度当初スタートしたが、具体的な動きには至らなかった。

(7)保護者(家庭)との連携強化
  • 6月より年度末まで20回「KENIKUだより」を発行し、保護者に向けてタイムリーな情報を発信した。
  • 4月の保護者会の他、年4回に及ぶモニタリングの内2回について保護者と面談を持ち連携強化を図った。
  • 年度当初、全利用者の家庭訪問を検討したが実施には至らなかった。

(8)厨房事業(クッキングサービス)の実施
  • 栄養士の資格を持つ職業指導員を2名配置して準備にあたり、新校舎移転後に当初計画より1か月前倒しで事業をスタートできた。
  • 厨房訓練における5段階評価表を作成し利用者支援を行った。

(9)新校舎整備と移転
  • 予定通り7月末に建物は竣工したが、教育委員会の移転に係る許認可の関係で8月末に引越しをし、理事長を迎えてオープニングセレモニーを行った。
  • 新校舎の建設、備品等整備、旧校舎の原状回復等含め整備移転関連費用は予算内で収まった。

(10)新入生と新規利用者の確保
  • 平成28年4月1日付、新入生20名と就労2グループ15名でのスタートを目標に掲げ、年間30回を超える説明会(保護者/教員向け)オープンキャンパス、体験活動等を実施し達成した。
  • 市中学校特別支援教育研究会定例役員会、高等特別支援学校合同説明会、進路対策研究会、自立支援協議会等で学院及び就労移行支援事業所の案内、情報発信を積極的に行った。
  • 必要経費を予算化して、特別支援教育総合センターのある和田町駅階段広告、高等特別支援学校説明会等が開催される西公会堂前の電柱広告の他、年2回にわたり市内広域に向けタウン誌に広告を掲載して積極的な情報発信を実施した。

(11)技能教育施設変更申請と面接指導会場再申請
 技能教育施設変更は8月に、面接指導会場は2月に許可され、予定通り次年度からスクーリング及び試験を新校舎にて実施することが可能となった。

(12)地域とのつながり強化と各種協議会参加
  • 小机新校舎への移転を機に鳥山町内会へ参加、同時に通学/通所経路である小机東町内会を中心に70軒程挨拶を行った。また、両自治会役員及び地区民生委員の方々に対し、隣接する福祉事業所と協力し見学説明会を開催した。
  • 小机東町内会長と相談し、タバコのポイ捨て等が問題になっている線路沿いの通学路を中心に定期的な清掃活動をスタートした。
  • 港北区地域自立支援協議会児童部会に参加し、他の社会福祉施設との連携を深めると共に必要な職員派遣や会場提供を行い、地域の社会福祉資源としての役割を担った。
  • 進路対策研究会に参加し、卒業後の進路について情報収集を進めると共に、高校生年齢に共通する支援上の課題につて情報交換を行った。
  • 港北区学校/警察連絡協議会に参加すると共に、担当スクールサポーターとの連携を密にして、生徒の非行防止及び安全対策等について情報交換を行った。
  • クラーク記念国際高等学校「東日本地区キャンパス連携連絡会議」に参画し、運営統括本部との連携を強めると共に、他のキャンパスとの情報交換を積極的に行った。
  • 福祉制度等の情報収集を目的に市知的障害関連施設協議会への参加を検討していたが、具体的な動きは次年度へ持ち越す形となった。

(13)横浜事業本部への参画
 開設2年目の業務執行機関として、横浜事業本部内で必要な役割を担うべく、センター方式研修委員会、防災委員会に職員を派遣すると共に、実践報告会では先駆的な事業の取組みについて分科会で発表を行った。

(14)職員の教育/支援スキル向上
  • 高等特別支援学校の職業教育研修に6名、高等特別支援学校公開研究会に4名、障害者雇用企業における就業体験研修に4名、障害者職業センターの就業支援基礎研修に2名を参加させると共に、法人内センター方式研修に2名参加した。
  • ケース会議の定期開催を試みたが、次年度に向け課題が残る状況として年度末を迎えた。
  • センター研修会の実施を試みたが、次年度に向け課題が残る状況として年度末を迎えた。

(15)追加実施項目
  • 将来の自立に向け、自律心を高めるために「学院規則」と「学院生活の心得」を作成し、生徒指導上の根拠を明確にすると共に「自らの意思でルールを守る心」を育むよう取り組んだ。
  • 職員では補いきれない思春期のこころの悩みに少しでも寄り添えるよう、専門のカウンセラーに月2回来訪して頂き「こころの相談室」をスタートさせた。
  • キャリアスキルトレーニングの一環として実施している清掃実習について、より専門性を高めるためにビルメンテナンス協会の講師と委託契約を締結し訓練をスタートさせた。
  • 20人の新入生を迎えるにあたり、より生徒の状態を的確に理解し良好な適応を図る目的で、全生徒の在籍中学校を訪問し担任の先生から個別に話を伺った。

■思春期の生徒・利用者支援

 前年度は、生徒・利用者も不安と緊張の中で遠慮していたのかもしれない・・・と思う程に、今年度は当初から支援上の課題については事欠かない状況であった。
 それぞれに抱える思春期の混乱と、様々なやり場のない不安/イライラ感を解消するためなのか、まるで流行に乗り遅れることの無いよう多発連鎖した自傷行為・・・もちろん個々の事象の裏側について掘り下げて対応するのは当然だが「学級」という集団性の中、まずは流れをここで止める!といった対応と手法が求められた。
 行為の一部が活動時間内に行われていた事に我々も衝撃を覚えたが、集中的な対応により速やかな解決が図られ、今は、初期対応の重要さと「些細な変化も見落とさない観察力」が基本であることを職員全体で共有している。
 同じく、正に思春期の生徒・利用者を対象としている当センターにとっては、切っても切り離せない、真正面から取り組まなければならない『性』の問題がある。
 常識的には口にしない幼児性からくる卑猥な言動/行動から、現実的な異性交際、身体的接触に至るまで、得手不得手感、状態像が近い生徒が集まることによる強み(ピアサポート)の表裏の部分として、高校生になった彼らは、周囲の進んだ?友人やインターネット等からの情報に翻弄されながら安易に「新しい体験」をしてしまい、大きな問題に進展する不安を常に抱えている。
 性的発達について『高校生』そのものである生徒に対して、何よりも自分自身の心と体が傷つく事がないように、又、同時に他者を傷つける事がないような指導を、保護者との連携を密に取りながら継続していく必要性を痛感している。
 当センターに通ってくる彼らだからこそ「その時期になれば勝手に覚えるだろう」ではなく、子ども扱いせず、大人になるために絶対的に必要な対人関係とマナーの学習として、性の問題を肯定的に捉えながら効果的なプログラムや対応を研究していきたい。
 不登校に関する相談も年間を通して常に一定数受けている。
 今年度、在籍校で不登校のために転入を希望してきた生徒を年度途中の11月に受け入れた。
本人の状態はもちろん、市外在住という物理的な距離もあわせ難しさを感じながらのスタートとなったが、当該学年での受入/進級を考慮すると、当初相談受付から入学決定までに費やす事のできる時間は驚くほどに短かった。
 登校初日のみ何とか教室で数時間授業を受ける事が出来たが、その後、彼が教室でクラスメートと一緒に時間を過ごすための環境を整えてあげる事は出来なかった。
 試行錯誤しながらの、毎日の電話連絡、別室での個別対応、複数回に及ぶ家庭訪問、他の生徒が下校した後の夜間時間対応等の担当職員の努力も、出席(スクリーング)、報告課題(レポート)提出や試験に向けての期日問題を突破する事は出来ずに、保護者とも相談の上12月末で退学とならざるを得なかった。
 不登校と呼ばれる生徒の悲しみについて、誰にでも通用する有効な対応が無いことは承知しているが、入学決定までの間に「本人の入学する意志」と「自分は何のために横浜健育高等学院に入学するのか」について、丁寧に話し合い確認する時間をもう少しとれなかったかと悔やまれる。
 既に始めているが、他支援機関の紹介はもちろん、少なくとも彼が卒業したであろう18歳までは家庭との連絡を取り続けながら、両輪で提供しているサービス「福祉」において、彼を支援できる機会を見逃す事のないよう注意して行きたい。

■次年度に向けて

 今年度、児童相談所と連携して対応をすすめ「本人にとって良好であった」と判断できる結果に結びついたケースがあった。世の中で騒がれている「貧困」や「格差」は当センターにとっても決して他人事ではない。
 家庭の養育機能について、学校や事業所から一歩踏み込む事について躊躇しがちになってしまう傾向があるが、ここにこそプロとして自覚を持ち断固たる行動が必要だと感じる。
「本人が受給した奨学金は本人の学費のために使用する」こういった当たり前の感覚、注意しなければ衣服に隠れてしまう外傷や、何だかいつもと違う元気のない様子、これらに気が付く事が出来た職員の力量に感謝したい。
 しかし、今後も同じ対応が出来るかについては不安も残る・・・。
 可能な限り生徒・利用者と同じ空間にいる時間を求め、親以外で一番信頼される様な存在を意識的に目指す、そんな職員でなければ必要なセンスも観察力も決して身に付ける事は出来ない。
年度を通して話題に事欠く事がなかった問題行動と呼ばれるものに対し、その行為に気が付くことは出来たが、その事に対する有効な手立てをどれだけ用意できていたのか、特に、我々職員自身がどのように本人と関わり取組みながら汗をかいてきたのか・・・。
 あるいは、法人の理念と使命に照らし保護者への支援は充分であったのか?多様な経済状況や生活環境にある個々の家庭に対し「親とはこうあるべきだ」「親ならこれぐらいは当然だ」このような短絡的な考えを何の疑問もなく持ち続け、プロの支援者として必要な想像力を放棄してはいなかっただろうか?傷つき、疲弊している親をサポートする事も同愛会職員の本来業務である事を改めて確認したい。
 次年度は、法人からの要請である「新規事業は、立上げ3年で軌道に乗せる」この事を成す最終年度である。
 先述した通り、大枠としてのハード/ソフト面、及び経営/運営については今年度末までにレールを敷き終える事が出来た、この先は実際に敷いたレールを走りながら、次年度想定される外部からの確認(福祉/教育両行政)等を踏まえ必要な修正を加えて行くことになる。

■おわりに

 先駆的な取組みとして『教育』と『福祉』両輪でサービスを提供する当センターの事業運営において、所謂「教育的思考」と「福祉的思考」で意見がずれる状況が見受けられる。
 よく聞く「医療職」と「福祉職」のすれ違いの様なものかもしれないが、どこか総論における抽象的な感覚を覚え、リアルな一人の生徒・利用者について具体的なケースの話をすれば自然に同じ方向を目指す事が出来ると信じている。
 法人が横浜健育センター事業を開始した平成26年7月に「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」報告書が提出され、現在の「社会福祉法等の一部を改正する法律案」につながっている。
これらは、公益性・非営利性を確保する観点から制度を見直し、国民に対する説明責任を果たし、地域に貢献する法人の在り方を徹底する内容となっており、地域における公益的な取組みを実施する責務として、社会福祉法人の本旨に従い他の主体では困難な福祉ニーズへの対応が求められている。
 社会福祉法人同愛会が運営する新しい形「福祉型高等学校」を謳い、全国的にも稀有な存在を自負している我々にとって、公立や学校法人では困難なニーズへの対応が必要である事を疑う余地はない。