横浜健育センター 平成28年度 総括
統括所長 中田 聡

はじめに学院のニーズは高い教育に関する制度
就労2グループおわりに

■はじめに

 平成29年3月17日、ラポールシアターに於いて「横浜健育高等学院第3回卒業証書授与式」を挙行し3年生全員が無事に巣立っていった。彼らは3年前、横浜市から要請された新規事業として「横浜健育高等学院」を開始した際の1年生18名に、その後2名の転入生を加えた20名である。この事により「何よりも、生徒の行き場がなくなるという事態を生じさせない」という法人の強い意志で「日本健育高等学院」から引き継いだ61名(単位制含む)の生徒全員が、途中退学することなく高校を卒業する事ができたことになる。
 生徒本人の努力と保護者のサポートに大いなる敬意を表すると共に、この場を借りて軌道に乗るまでの激動期を支えてくれた全教職員に改めて心より感謝したい。
 開設3年目となる今年度は、法人からの要請である「新規事業は立上げ3年で軌道に乗せる」この事を成す最終年度にあたり、前年度までにハード/ソフトの大枠についてはレールを敷き終えたが、同愛会が教育に関する公益事業としての「横浜健育高等学院」を永続的に取り組むべき意義と解決すべき課題について、年度末までに法人に対し報告と提案をしなければならない事をスタッフ一同で確認してスタートをした。
 よって、本総括はこれに対応すべく、単年度の報告というよりは年度末に法人に対して行った「横浜健育センター立上げ完了報告」の内容を中心にまとめてみたい。

■学院のニーズは高い

 「高校の卒業資格を取得したい」「もう一度教科書を使った勉強をしたい」これらが、生徒のほとんどが学院への入学を希望する理由である。
自閉症特例を活用しなければ療育手帳を取得する事ができない、あるいは特例でも療育手帳は取得できないので精神障害者保健福祉手帳を取得する等、いわゆる「軽い」障害がある彼・彼女らにとって、中学校特別支援学級の授業では自身の可能性に対する満足感を得るのは難しいと言える。また、入学してくる生徒の2割程度を占める中学校普通級在籍生徒は、授業内容・スピード等について困難さを感じ、サポートを受けられない「一般高校進学」を躊躇している。
 このようなニーズに対して応える義務教育終了後の進路先に「教育」と「福祉」を兼ね備える場所が整備されていない状況の中、ある意味で言えば制度的に「いいとこ取り」をしているのが当学院である。
 地域課題としても、今年度横浜市内中学校の特別支援学級3年生在籍生徒数は約600名であるが、5年後には800名を超えると言われている。しかし、彼・彼女らの進路先として中心的な役割を担っている市立の高等特別支援学校3校の定員は140名程度、その他県立の分教室の定員は各校15名であり受け皿としては充分とは言えない。
 また、年間100万円とも言われている授業料の支払いが可能な家庭は、手厚いサポートを謳う私立高校への進学も可能ではあるが、現状では、高等特別支援学校や養護学校分教室への進学を希望するも残念ながら不合格となり、経済的な理由で私立を選択する事もできず、浪人するわけにもいかないので、最終的には全く想定(希望)していなかった公立の定時制高校に進学せざるを得ないというのが最近多く聞かれるケースである。
 しかし、ここでいうニーズの高まりは供給より需要が多いという単なる数字のアンバランスさから生じているだけではなく、諦めかけていた「高卒資格」を目標にする事で自尊心を高め、状態像が近い仲間と“高校生”を生きる事で青春を謳歌し、教科学習だけではなく、コミュニケーション力を高める事を中心に「生きる力」を身に付ける事ができる様々なプログラムが用意されている当学院への評価から生まれている。
 そして、就職に向けた強力なサポート体制とそれを裏付ける高い就職率、これらの総体が他では満足する事が難しく、生きづらさを抱えている高校生及び保護者からのニーズが高まる理由だと考えている。
 しかし一方で、事業開始時には思いもよらなかった問題も生じている。
 設備的な条件から1学年1クラス制・定員20名が法令上の要件である事と、前述した状況とを突き合わせると「地域でも有名な入学できない高校・・・」との声があがりはじめてしまったことや、その様な状況下でよりIQが高い生徒があつまる傾向が顕著に表れ、18歳の再判定時には療育手帳を返還するケースが毎年の様に発生してしまったことである。
 後述する文科省の通信制高校の在り方検討とも密接に関連するが、高まっている学院へのニーズを背景に不合格者を出さざるを得ない現状と、今後を考えると非常に悩ましい…。
 しかしながら、以上のことからも同愛会が教育に関する公益事業としての「横浜健育高等学院」を永続的に取り組むべき意義がある事は確信を持って報告する事ができた。

■教育に関する制度

 事業開始を決定する前から常に付きまとっていたのは「社会福祉法人が行う意義があるのか?」「社会福祉法人がやっていけるのか?」の2点であった。
 この内、前者については既述した通りその意義について充分に確認することができた。
 後者についてもクラーク記念国際高等学校本部校、神奈川県教育委員会の指導を仰ぎながら、2年目までに教育計画・面接指導・定期試験・報告課題・講師・学籍・費用等々についてほぼ掌握する事ができ、誤解を恐れずに表現すれば我々の予想を超えた柔軟性を持つ制度運用について知る事となり、普通高校では馴染むことができない多様なニーズを持つ生徒の受け皿として発展してきた通信制高校についてより理解を深める事にもつながった。
 そのような中、昨年度後半にウィッツ青山学園高等学校の無免許授業や就学支援金不正受給の問題がマスコミで報じられ、毎年4月に開催されるクラーク記念国際高等学校「東日本地区キャンパス連携連絡会議」においても、運営統括本部より講師の資格確認や生徒のスクーリング出席等に関するより厳格な制度運用への注意喚起と報告課題提出方法の変更方針等の話がでた。
 更に、既に本部校より情報を得てはいたが、7月7日にクラークのサポート校である四谷インターナショナルスクールの不適切運営が新聞紙上で報じられ、また、9月30日に文科省より「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」が策定される動きの中、それに前後して年度内に3回の本部校による実地調査が行われた。
 結果については、どれも改善の指摘を受ける状況ではなく、現状のガイドラインはもちろん3年後の見直し時においても充分に対応できる内容との評価を頂いた。
 また、年度末の「横浜健育センター立上げ完了報告」においては、法人として把握しなければならない教育に関する制度・学校事務を共有する為のツールとして「横浜健育高等学院事務マニュアル」を作成して法人に提出し、現時点で目標としていた到達点に達している事を確認すると共に「社会福祉法人がやっていけるのか?」との懸念を払拭する事ができた。

■就労2グループ

 福祉型高等学校として午前と午後を組み合わせた3年間の「学院」について、その運営・経営は軌道に乗り、今後の展開についても順調に歩む事ができる見込みである一方で、センターを構成するもう一つの柱である就労2グループについては「立上げ完了報告」の中で大きな課題がある事を報告した。
 それは、利用者ニーズと事業所方針とに密接に関連し、経営的にも重要な「平均利用人数」の減少見込みについてである。
 事業開始時の就労2グループの主たる想定対象者は、学院の卒業生であった。
 つまり「卒業と同時に就職が決定しなかった生徒」あるいは「もう少しゆっくりと社会にでたいと思う生徒」この様な生徒が学年に半数近くいる事を想定していた。
 それに加え、他の高等特別支援学校等で就職を目指したが残念ながら卒業時に就職に至らなかった生徒を合わせて10~15名規模の予測値であった。
 ところが、昨今の障害者雇用企業の採用マインドが高い事に加え、予定される法定雇用率上昇等の外的要因も重なり、更に先述した当学院の訓練内容、動機付け、就労支援員増強等の内的要因も合わせて、今後は卒業時に企業就労を決めていく生徒が増えて行く事が容易に想定できる環境になった。
 実際に、今年度は過去2年に比べて単に就職率が上昇したというだけではなく、その中身についても、業種・職種の広がりや想定よりも好条件の雇用契約内容等、本人・家族はもちろん、我々にとっても何物にも変えがたい喜びを享受する状況となった。
 先に、「利用者ニーズ」と「事業所方針」とに密接に関連としたが、ニーズか変化したのならば当然に方針を再検討して、速やかに変化に対応していかなければならない。
 そこで我々が立上げ完了報告で提案した変化への対応は、就労2グループの利用者受入れについて以下の2つを基本方針とする事である。
 1つ目として、実際に良く聞く話である「就労移行支援事業所は、県立養護学校(分教室含む)卒業後の進路先としてはハードルが高いと感じ躊躇してしまっている本人・保護者」に対して、就労アセスメント制度の本来的意義に沿いながら、同時に当事業所の専攻科的な従来の流れとも合致させ、就労2グループを10代の身でその先長期化が予想される日中活動事業所を選ぶ以外のもう一つの選択肢として位置付ける事である。
 これは事業開始時から言い続けていた就労2グループの方針と同じだが、わかり易く言うと、より障害が重く就労に向けて課題が多いとされる利用者であっても、特に高等部卒業時や卒後間もない10代の対象者であれば積極的に受入れていくということである。
 もちろん企業就労を第一義的に目指す事は当然だが、より重要なのは、その先の長い人生において必要になるものを身に付ける大事な期間として明確化する事である。
 2つ目は、健育に限らず就職率が上昇している一方で業界全体ではその定着が課題になっており、国の新たな施策等もあるがなかなか有効な手立ては見出せていない現状に対し、残念ながら離職してしまった対象者、特に20代後半までの利用者を積極的に受けて行く事である。
 挫折をした彼・彼女らは自信を喪失し心身共に疲弊しきっている事が多い、我々の持つ専攻科的な雰囲気の中でゆっくりとそれぞれの課題を解決しながら、やはり、まだまだ先が長い人生を有意義に過ごしていくための“人生のポケット”の様な時間を提供して行きたい。
 これらのニーズも課題も多種多様な利用者に対して就労2グループは、限定的・固定的な考え方やプログラム内容では不十分なのは明らかであり、スタッフ一同、柔軟な発想と積極的な行動が求められている。

■おわりに

 今年度、港北区地域自立支援協議会児童部会に参加する中で、障害がある高校生が学校を退学してしまった場合の受け皿が無い話が幾度となくされた。
 不登校ながらもなんとか放課後等デイサービス事業所には通う事ができ、いわゆる引きこもり状態に至らずに家族以外との繋がりを持つことができているケースが報告される一方、障害が軽いからこその場合に多いが義務教育ではない高等部を正式に退学してしまうと…
 学校の先生からは「退学をしてしまったら指導(サポート)を続けるのが難しい」との話があり、福祉側の中心的な受け皿である放課後等デイサービス事業者の支援者からは「学校を辞めてしまうと制度的にサービス受給者ではなくなってしまい支援(サポート)を続けられなくなってしまう」という状況を聞く。
 本来、そんな彼・彼女らにこそ「サポート(指導・支援)」と「何処かに所属しているという安心感」が必要であると思う。
 10代半ばで学校からも世間からも疎遠になるという事は、障害の有無に関わらず極めて困難な状況であり絶望的であるといってもよい。
 ここで再び、我々の就労2グループの存在をアピールしたい。
 今後、先述した方針に加えもう一つ重要な役割として彼・彼女らの所属先となり、安心感を得てもらう中で自立(自律)した大人になるための取り組みの時間を提供する事ができたらと考えている。

 今、3年間を振り返り、新たな政策提起を含め「教育」と「福祉」を一体とした事業の展開を進めていく、「福祉型高等学校」という新たな価値創造への挑戦としてスタートした「横浜健育センター」だったが、一歩一歩、着実にその役割を果たしてきたと自負している。
 と同時に、600㎡の・・・ 学校としては非常に小さな木造2階建の空間で繰り広げられるノンフィクションで愛おしい人間(青春)物語を、この先も長く、信頼する仲間と共に観て行きたいと心から願っている。