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シリーズ『次世代につないでいく(5)』 一年目の挑戦



昔々、立春から二百十日、二百二十日頃に台風が襲来していた。H学園では子どもたちと一緒になって嵐を迎える。隙間だらけの雨戸が、風で飛ばされないように釘打ちする。園舎を直撃する風と雨に小さな子たちは怯えるが、年長児は吹き込む雨水を雑巾で絶え間なしに拭取る。風が弱まると、学園を挟んで流れる二本の川が、龍のうねりと咆哮が呼び合うように大荒れに荒れる。全職員が子どもたちの布団の間に入って、まんじりともしないで夜明けを迎えた。

園舎がゆさゆさ揺られた台風の体験を台本に仕上げた。東京都児童施設演劇祭に出演した。学園の行事では、障害の軽重を基準に別々に扱われてしまう。それが気に食わなかった。康ちゃんや要坊が参加できる、子どもたち皆が主役の劇構成を一緒になって創った。全員が舞台を躍動し、駆け抜けた嵐の後に、置いてけ堀になった一雄君が散った落ち葉を拾い集めていた。

スポットを浴びて、何時もの石拾いを舞台上で怯むことなく続けていた。

劇は特別賞をもらった。精薄児施設が賞をもらうことが少なかったので、しばらく話題になった。障害の重い子は臨海学校にも招かれない。相撲や歌謡ショー等の招待から外される。いつも留守番だ。
その子どもたち全員と山中湖に出かけた。歌舞伎町に店をもっていたフジ君の親の別荘を借りた。寝小便の布団を干す、便失禁の洗い物をすることもあったが、湖畔でのファイヤーと花火は楽しかった。

以上は、就職一年目の挑戦だった。

先輩を差し置いて生意気な職員だったのだろうと思う。が、みんなで一緒に駄弁り、考え、行動することが楽しかった。駄目だろうと思うことが実現する。そんな日々が仕事であった。